もう一度生まれる

Born again

2021年/日本語/日本/38分/ワールドプレミア

解説

「もう一度生まれる」は、“空間に宿る記憶”というテーマが大きな軸になっており、コロナ禍における空間の終わりを、描いているのが一番の特徴である。この作品の場合は、スーパー銭湯という空間を舞台にしており、タイトルインまでは、お客さんの汚れを落とし、心身を癒すという、場所としての目的と存在価値を提示している。タイトルイン後は、コロナ禍により、休業中のスーパー銭湯が舞台になっており、お客さんがいなくなったことにより、場所としての目的を果たすことが出来なくなった様子を描いている。清掃員の立場を通して、今一度、スーパー銭湯という空間に触れ、そこで働いていたスタッフや客の声を呼び覚ます事で空間が命を宿しているような演出を施している。

あらすじ

スーパー銭湯の新人清掃員として働く亮太は、仕事を通し、“当たり前の景色を保つこと“の難しさを知っていく。髪の毛1本でも気にする仕事の姿勢や、心臓部でもある、ろ過装置の存在を知ることによって、清掃業の世界にのめり込んでいく。次第に、スーパー銭湯を物として捉えるのではなく、生き物であると捉えるようになる。そんな中、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、スーパー銭湯は休業を余儀なくされる。休業の間、清掃作業からも遠ざかり、客を向かい入れていた“当たり前の景色“は失われていった。そんな中、店長から1通のメールが届く。それは営業再開に踏み切ることなく、スーパー銭湯の閉店を知らせるものであった。亮太は大きな喪失感を露わにし、清掃員たちは各々の形で、スーパー銭湯の最期に向き合っていくー…

監督

堀川湧気
日本大学藝術学部映画学科で、映画やドキュメンタリーの制作について学ぶ。卒業後は、テレビ業界に進み、フジテレビの報道番組「Live News α」の制作に携わる。現在はディレクターとして、番組内で取り扱う映像作品の企画・構成・取材等を行う。学生時代、監督作品が NHK E テレ「岩井俊二のMovie ラボ シーズン2」にノミネートされ、テレビ出演を果たす。出演時には、岩井俊二監督とゲストの堤幸彦監督に作品についての講評を頂く。また、監督を務めた卒業制作が優秀作品に贈呈される「日藝 特別賞」を受賞。2021年、監督・脚本・編集・プロデュースを務めた映画「もう一度生まれる」が京都国際映画祭にノミネート。ノミネートを通じて、優秀作品に贈呈される「優秀賞」も受賞する。

スタッフ&キャスト

監督/プロデューサー/原作/脚本 堀川湧気
出演 斉藤天鼓、笠松七海、入江崇史、伊澤恵
美子、沖田裕樹、小山蓮
スタッフ 樋口皓大・小林拳丈(撮影・Aカメラ)/堀川湧気(撮影・Bカメラ+編集)/小川北人・神野友美・雲井寛(録音)/檀上かおり・是澤ちほ・盛雄治(照明)/小園悠太・平木理裟・鈴木美桜(助監督)/織田悠希・西貝実花・森美知子(制作)/神野友美・西貝実花(美術)/土屋穂高(音楽)/ファンタジーサウナ&スパ おふろの国・清掃員の皆様・井上勝正・林和俊・寒作文美子(撮影協力)

上映スケジュール 7/28 thu – 8/1 mon

Director’s Voice

1.映画制作をはじめたきっかけは?

高校2年生の時、進路面談で先生に「行きたい大学は?」「将来やりたい事は?」と聞かれた時に何も答えられない自分がいました。そんな時、ツタヤで「桐島、部活やめるってよ」という映画を借り、鑑賞した時に今まで感じたことのない衝撃を受けた事がきっかけです。映画で見た、登場人物の一人一人がリアルで繊細で、まるで自分の生きている現実をそのまま映したような世界観に衝撃を受けました。それと同時に、あの頃抱えていた…言葉に出来ないイライラやもどかしさが映像で見ると、しっかりと可視化されていて、映像表現の奥深さに驚きました。映画館に行く機会も増え、自分が想像すら出来なかった世界観や人物との“未知なる出会い”も映画が持つ力だと思い、自分も映画を通して、人間や環境が抱える本質を描いていきたいと思いました。

2.影響を受けた作品や監督は?

映像的な演出で言えば、相米慎二監督。ストーリーや台詞の構成面だと、濱口竜介監督や是枝裕和監督の作品はよく参考にしています。相米監督の「台風クラブ」で言えば、台風が押し寄せる中、体育館にこもる学生達が音楽に合わせて、徐々に自分のリミッターを外し、踊り始めるシーンが大好きで。体育館に集まる学生らの引き映像から始まり、音楽が掛かり始めると、舞台上で踊る彼らにカメラが寄っていく…それをワンカット内で収める、雰囲気の持続性と役者の生きた芝居を引き出していて、こういう演出をしたいと参考にしています。濱口監督や是枝監督は、中心的人物が不在になり、関係性が変化する人間劇が多い印象で、それを家族で実践したり、人間としての大枠で実践したりと、移りゆく関係性にフォーカスした作品構成は参考にしています。

3.本作の制作動機、インスピレーションは何でしたか?

自分がテレビの報道番組で働いている環境下が第一にあります。報道番組では、その日毎に発生した社会のトレンドや  事件・事故等を取り上げる事が多いですが、新型コロナ ウイルス感染拡大により、番組で取り扱う項目がコロナ 一色になりました。コロナ禍で苦しむ人々や店舗にカメラを回す機会が多くなり、その際にこぼれ落ちた思いや景色を更に拾い上げたいという僕個人の意思から、「もう一度生まれる」の企画が始まりました。本作では、コロナ禍のスーパー銭湯が舞台になっていますが、本来であれば、人々の心身ともに当たり前を保つ場所が、新型コロナの感染拡大により、客やスタッフがいなくなり、場所としての目的を果たせなくなってしまう事で、コロナ禍で様変わりした景色と日常を主張できると考えました。。

4.本作ではどんな困難に直面し、それをどう乗り越えましたか?

スーパー銭湯という空間そのものを主人公にした脚本だったので、人をどう切り取った上で、空間を見せるかの構成面・演出面は、かなり悩みました。
最初は客の描写が最少なく、清掃員に更に焦点を当てた構成になっていました。しかし、そうすると、清掃員だけの視点で空間を捉える ことになり、空間としての意味合いに多様性が出ないと思ったため、客の視点もしっかり取り入れるべきだと考えました。決定稿に行き着く前に、客が利用する描写をファーストシーンに追加し、営業中の銭湯から、明かりが消え、閉店中の銭湯に切り替わる事で、映像的にも非常に深みが出るようになりました。客と清掃員の入れ替わるタイミングを明確に提示する事で、“スーパー銭湯に集まる人々の話”という要素を違和感なく主張できたと考えています。

5.本映画祭への応募動機と選出された心境は?

商業映画で活躍している監督が、数多くこの映画祭を通過してきたので、歴史ある映画祭で自分の作品も上映したい気持ちがあり、応募しようと決めていた映画祭です。他の国内の映画祭とは異なり、海外の作品も数多くエントリーされるので、今回も500以上もの作品の中から、「もう一度生まれる」が選出された事は今後の励みにもなりますし、自信に繋げたいと思います。この映画祭を通して、口コミが広がった映画も数多くありますし、実際に松本花奈監督「脱脱脱脱17」や小川紗良監督「あさつゆ」など、学生時に拝見して、近い世代でもあったので、作家性を確立した作品として、衝撃を受けた事を覚えてます。自分にしかできない映像表現や作家性を求めながら、この作品も制作したので、映画祭を通じて、一人でも多くの人に届けば嬉しいです。

6.ご覧になる皆さんへメッセージを

この映画祭に入選した自主制作映画を可能な限り、皆さんに観て欲しいなと。“商業映画”と“自主制作映画”…この2つはよく比較される事がありますが、その境目は無くなりつつあるのかなと感じています。技術的な面もそうですし、作家としてのオリジナリティーで言えば、私自身は自主制作映画を観ている時の方が驚く事が多いです。それはスマホやデジカメが普及し、誰でも映像を綺麗に撮れる時代になったからこそ、作品の内容…映画としての本質が改めて、問われているからじゃないかと思います。「もう一度生まれる」はその事を考えながら、テレビの報道番組で培った“社会を見る目”と、日藝の映画学科で培った“映画だからこそできる映像表現”の2つの経験を元にして制作したので、そういった点も楽しんでもらえれば幸いです。