世界で一番すばらしい俺

2021年/日本語/日本/13分

解説

誰かの心を知ることは、人間が人間らしい温もりを持って、人間らしくあることを維持する唯一の手段である。たった三十一音で、それを可能にするのが歌だ。新聞などに今も短歌の投稿が多く寄せられるのは、自然と人がそれを求めているからに違いない。とまで思った。今回の「世界で一番すばらしい俺」は、作者の恋心から自殺未遂まで、青春時代の実体験を切り取った歌集である。それを映像化し、自分ではない誰かの「内面の画」に包まれる。感動でも共感ではない。 ただ、内面に包まれる感覚。今後、映像ソフトが誰かの人格形成に大きな影響を与えることは増えていくだろう。だからこそ この感覚を伝えたく‒ 。カメラを回した。

あらすじ

高校の音楽部に所属する「俺」。パートは「コントラバス」。低くうねるコンバスのように、思春期独特の鬱屈が、低く太く、体幹にまとわりつくようにうねる毎日を送っていた。唯一の光は同じ音楽部に所属する「あなた」。パートは「マンドリン」。高い音色で五重奏をリードするように、その存在は俺の心の低いうねりを青春へと昇華させる。「俺」は溢れ出る恋心を、活字に変え、四枚のルーズリーフに閉じ込めた。挨拶以外したことがない「あなた」に、「俺」は恋の音色を四つ折りにして手渡した。手応えはあった。受け取るときの笑顔がその根拠だ。しかし、二週間が経っても、「あなた」からの返事はない。低く一定だったうねりが、時に高鳴り、時に濁り…、「俺」の心の中で不協和音を奏で始めていた。いてもたってもいられなくなった「俺」は、昇降口で「あなた」を待ち伏せた。もちろん返事を聞くためだ。しかし、「あなた」は返事どころか、言葉さえ発しなかった。俺の顔を見て、表情を曇らせて、去った。…音が途切れた。気づいた時には「俺」は、校舎・屋上の縁に立ち、69キログラムの体を宙に投げ出していた。鬱屈のち恋、鬱屈のち失恋。鬱屈のち飛び降り。飛び降りのち…。

監督


山森正志
普段、「奇跡体験!アンビリバボー」という番組を制作している。僕自身、総合演出として、この番組の使命は「教育的側面を持つテレビ番組」と感じている。それは、学校の授業で言うと道徳に近いかもしれない。まさに人間らしくあるための心の内だ。剛力彩芽さんは2012年から当番組のMCを務めてくださっており、番組が持つその側面にも大きく共感をしてくれていたため、今回のプロジェクトにも賛同してくれた。(企画の原点の原点、元々は彼女がこの本に興味を持っていたことです)。今回は、「内面の画」の表現、かつ、男性役という難しい表現だったが、誰かの内面に包まれるための誰かの内面の表現方法を、ともに考え、制作者としてその過程にも携わってくれた。剛力さんと共に、自主制作という形で作った映像作品です。

スタッフ&キャスト

企画/プロデュース協力/主演 剛力彩芽
監督/プロデューサー 山森正志
出演 剛力彩芽、菊池日菜子
原作 工藤吉生 歌集『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)
スタッフ 井出雅之(撮影)
尾山隆之、山下由美(照明)
草場尚也(助監督)
折井清純(音楽)
制作プロダクション ㈱ E&W

上映スケジュール 9/16-9/20